2.1 構成の自由度
本理論が機能するための必須条件は限定的であり、その他の要素は自由に選択できる。
必須条件
- オーバーフロー式(曝気による酸素供給、大容量サンプ)
- サンプ内の多孔質素材(バクテリアの定着面)
- 炭素源の定期投入(C:N比の維持)
- デトリタス食性生物(バイオマスの捕食者)
必須条件を満たした上で、以下のパラメータは自由に選択できる。
| パラメータ |
選択肢 |
影響 |
| 底床 |
焼赤玉土(+ピートモス)、大磯砂、サンゴ砂、ベアタンク |
pHロックの平衡点を決定 |
| デトリタス食性生物 |
ミジンコ、イトミミズ、ヨコエビ、ミナミヌマエビ、ドジョウ等 |
サイズによりフルオート可否が決まる |
| 循環方式 |
フルオート / 手動 / 大型ポンプ |
維持管理の手間 |
| 炭素源 |
エタノール、酢酸、スクロース等 |
分解速度の違い |
| メインタンク |
水草水槽 / ベアタンク / 大型水槽 |
理論上はいずれでも適用可能 |
2.1.1 底床素材の選択
底床素材はpHロックの平衡点を決定するパラメータである。本理論においてバクテリアの主要定着面はサンプ内の多孔質素材であるため、底床はpHの基準値を設定する役割として機能する。なお、サンプに充填する素材は多孔質であることが条件だが、それを満たすなら底床と同じ素材を使用して構わない。
pH 5.5〜6.5
ピートモスのタンニン酸・フルボ酸が溶出しpHを押し下げる。崩壊せず長期維持可能
チョコレートグラミー・アピスト等の超軟水・弱酸性種
pH 6.7〜6.9
弱酸性・多孔質でバクテリア定着も良好。長期維持可能
テトラ・エンゼル等の弱酸性魚全般
pH 7.0前後
中性・安定・長期使用可能。貝殻が多いと若干アルカリに傾く
金魚・メダカ・中性〜弱アルカリを好む魚全般
pH 7.0前後
底床なし。pH平衡はサンプ素材に依存。メンテナンスが容易
大型肉食魚・訓練目的等
pH 8.0〜8.4
強アルカリ性。炭酸カルシウムの溶出でpHを持続的に押し上げる
海水魚・アフリカンシクリッド・汽水魚等
2.1.2 炭素源の種類と特性
炭素源はバクテリアのエネルギー源であり、種類により分解速度が異なる。窒素源(NH₄⁺)が律速となるため過剰な炭素源はCO₂として放散され、厳密な計量は不要である。ただし極端な過剰投入は水質悪化を招くため、pHの推移を指標に添加量を調整するとよい。
エタノール
C₂H₅OH
エタノール → 酢酸 → TCA回路
高速分解
スクロース
C₁₂H₂₂O₁₁
スクロース → 単糖へ加水分解
低速分解
本理論では複数の炭素源を混合した「炭素源エキス」を使用する。急激なバクテリア増殖と酸素消費のリスクを緩和しながら、安定した継続供給を実現するためである。具体的なレシピは第3章で解説する。
2.1.3 ベントスの選択とフルオート方式の条件
デトリタス食性生物(ベントス)の選択は、循環方式の自動化度合に直接影響する。フルオート方式では、ベントスが給水ポンプのインペラーを通過できるサイズであることが条件となる。
0.2〜3mm
フルオート
懸濁バクテリアを直接濾過捕食。水質改善効果が高く、小型魚の生き餌として最適。溶存酸素の指標にもなる
〜2mm
フルオート
増殖速度が速く安定供給しやすい。魚の嗜好性も高い
2〜10mm
フルオート
底床撹拌効果も高い。多くの魚が好んで捕食
5〜15mm
フルオート
デトリタス分解能力が高い。低水温にも強く淡水系では安定して増殖
1〜3cm
手動(底床撹拌)
昼間は底床に潜り嫌気化を防ぐ。夜間にデトリタスを摂食。底床撹拌機能が§4「底床非嫌気化」の帰結と整合する
1.5〜3cm
フルオート
デトリタス・藻類・バクテリアバイオマスを幅広く摂食。増殖サイクルが短く稚エビが常時供給される。入手容易
3〜5cm
手動 / 大型ポンプ
デトリタス分解力はミナミより強力。大型の有機物も処理可能。淡水では繁殖しないため個体数は自然増加しない
5〜15cm
手動 / 大型ポンプ
底床撹拌力が強い。大型肉食魚向けの餌として最適
フルオート方式の判断基準
ポンプのインペラークリアランスが概ね3mm以上であれば、イトミミズや稚ヨコエビの通過が可能なことが多い。ただし、使用するポンプの仕様を事前に確認することを推奨する。
2.1.4 適用しにくい構成
本理論は適用範囲が広いが、以下の構成では必須条件(十分な酸素供給・大容量サンプ)が成立しにくく、適用が困難である。
× 上部フィルター単体:サンプに相当する大容量の処理槽を持たないため、バクテリアバイオマスの蓄積とベントス増殖に必要な空間が確保できない。
× 外部フィルター単体:密閉構造のため内部の酸素供給が不十分。好気性の従属栄養細菌の増殖条件を長期維持できない。
※ 30L未満の小型水槽:技術的には不可能ではないが、バイオロードと炭素源量の管理が極めてシビアになる。十分な経験を積んでから挑戦することを推奨する。