生物環境技術研究会
Institute of Biological Environmental Engineering
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第4章
実際の状況 — 観察結果と実測データ
著者の水槽における1年間の運用記録

4.1 著者の実装仕様

以下は著者が実際に採用した具体的な構成である。第3章の汎用的手順を本環境に適用した実装例として参照されたい。

4.1.1 物理構成

水槽システムの物理的な構成を以下に示す。

項目詳細
水槽サイズ40×60×30cm(縦長・特注品)
サンプ30cmハイタイプ
底床焼赤玉土(硬質)— 弱酸性緩衝作用(pH 6.85付近)
サンプ内ろ材焼赤玉土(硬質)を敷き詰め
レイアウトストーン古葉石(チャーム)
照明ブリム パネルA(植物用ライト)
水温25〜26℃(ヒーター管理)

4.1.2 生体構成

メインタンク

メインタンクの生体構成を以下に示す。低層から頂点捕食者まで、食物連鎖の各層を意識して選定している。

生体層・役割
エンゼルフィッシュ3頂点捕食者
ナノストムス・ベッコフォルディ7中〜上層
リングローチ1低層
ホンコンプレコ2低層・コケ取り
アベニーパファー1中層・スネール駆除
ヒメツメカエル3低〜中層
ミナミヌマエビ複数低層・清掃
ラムズホーン複数低層・分解

サンプ(デトリタス食性生物)

イトミミズ・ヨコエビ・ミナミヌマエビ等を投入。フルオート方式(ポンプ通過サイズ)を採用している。

水草

エイクホルニア・アズレア、バリスネリアの2種を植栽。CO₂無添加で十分に生育している。

著者の水槽 全体写真
図. 著者の水槽全景 — 40×60×30cm特注オーバーフロー水槽。焼赤玉土底床、古葉石レイアウト。

4.1.3 炭素源エキスの構成

ベース液

3種の炭素源を以下の比率で混合し、ポンプボトルに充填する。

原材料 有効成分 分解速度
ウォッカ(40%) 200 ml エタノール ≈ 63g 速効性
米酢(酸度4.2%) 50 ml 酢酸 ≈ 2.2g 中速
グラニュー糖 15 g スクロース 15g 緩効性

炭素量ベースの比率はエタノール : 酢酸 : スクロース ≈ 82 : 2 : 16。上記をすべて混合し、ポンプボトルに充填する。ウォッカのアルコールが防腐剤として機能するため、常温保存が可能である。

炭素源エキス ポンプボトル
図. 炭素源エキスをポンプボトルに充填した状態。琥珀色はルイボスティー等の漬け込み素材による。毎日1プッシュをサンプへ投入する。

漬け込み素材(微量元素の補給)

炭素源エキスのベース液(ウォッカ+米酢)は、そのまま微量元素の抽出溶媒として機能する。エタノールは水よりも広範な有機物を溶解でき、酢酸はカルシウム等の鉱物を酸で溶出させる。この2つの溶媒に素材を漬け込むことで、炭素源の投入と微量元素の補給を一本化でき、別途液肥を購入・投与する手間とコストを排除できる。以下は著者が使用した素材の一例であり、目的のミネラルを供給できる素材であれば代替可能である。

素材供給する元素
藻塩Na・K・Mg・Ca・ヨウ素
バナナ(可食部)カリウム・Mg
ルイボスティーCa・K・Zn・Mn等
※ 注意
バナナは必ず可食部(果肉)のみ使用すること。皮には農薬が残留している場合があり、エキスに溶け出してエビ類が全滅する危険がある。

4.1.4 特筆事項:淡水性ヒドロ虫群体の発生

運用開始から約1年後、サンプ内に淡水性ヒドロ虫群体と考えられる生体の着生が確認された。樹状に分岐したストロン(匍匐茎)を伸ばし、水草やガラス面に密に着生する。淡水環境での報告例が少ない刺胞動物であり、本システムの豊富なバクテリア・微小甲殻類がヒドロ虫の定着を可能にした可能性がある。生態系の複雑化を示す興味深い観察事例として記録する。

淡水性ヒドロ虫群体 接写
図. サンプから取り出したヒドロ虫群体の接写。樹状のストロンと茶褐色のフロック(バクテリアコロニー)が確認できる。
水槽内のヒドロ虫群体
図. 水草茎に着生したヒドロ虫群体。水中で分岐しながら成長している様子。

4.2 実測データと観察結果

4.2.1 pH安定性

6.85pH
1年間継続して維持
酸性(pH4)中性(pH7)アルカリ(pH9)

pH 6.85が1年間にわたり安定的に維持されている。この結果は、硝化プロセスが事実上バイパスされていること——すなわち、硝酸によるpH低下が発生していないこと——を示唆するデータである。焼赤玉土の緩衝平衡点と一致しており、第1章 セクション4の「pHロック」仮説を支持する観察結果といえる。

4.2.2 日常の維持管理

毎日炭素源エキスをサンプへ1プッシュ
毎日水槽を眺める(異常確認)
随時水が減ったら足し水
随時水草が伸びたらトリミング

維持管理は実質的に「1プッシュと眺めること」に収束する。

4.3 コストと入手性

本システムの導入に必要な主な資材とそのコスト・入手先を以下に示す。

項目 コスト 入手先
オーバーフロー水槽 高め(最大のハードル) アクアリウムショップ・通販
焼赤玉土 安価 ホームセンター
ウォッカ・米酢・グラニュー糖 安価 スーパー
藻塩・バナナ・ルイボスティー 安価 スーパー
ベントス類 安価〜無料 釣具店・採取等(入手性が難点)

オーバーフロー水槽さえ用意できれば、ランニングコストはほぼゼロに近い。